ヴィシュヌはシヴァと並んでヒンドゥー世界の信仰勢力を二分する偉大な神です。 その姿は多種多様、とても複雑です。 それというのも、現在のヴィシュヌの姿は古代からの様々な神を自己の化身とし取り込んだことに依り、強力な勢力を拡大してきた複合神だからです。 紀元前一世紀頃に編纂されたインド最古の宗教的文献、『リグ・ヴェーダ』にはもうヴィシュヌの名が見られるそうです。その中では主神はインドラ(漢訳仏典では帝釈天)であり、ヴィシュヌは太陽の光の神格化とされ、天地を闊歩してその光で隅々まで照らし人間に対して慈悲深い存在とされています。 ヴィシュヌの名前の語源は「遍くゆきわたる」という意味があるそうです。 その後農業国家的性格が強まるにつれ、農村地帯を基盤とし各地の土着の神、各種族の神々や神話を吸収しながら勢力を伸ばしたヒンドゥー教と共に、紀元後十世紀頃までの間にはヴィシュヌの地位も確立されました。 ヴィシュヌが半跏の姿勢で座っているのは、永遠という意味を持つアナンタ竜王で、ヴィシュヌの持つ時間を象徴しています。千の頭があると言われますが、絵では五頭或いは七頭がヴィシュヌの頭上に傘のように広がった姿に描かれます。竜と訳されていますが、キングコブラのようです。 ヒンドゥーの神々は四本腕に描かれることが多いのですが、インドでは人生や世界観を四つに分けたりするように、四は完全な数と考えられその反映ではないかとのことです。 ヴィシュヌの四本の腕にはそれぞれ独特のシンボルを持ち、それぞれに意味があります。 先ず右上手の人差し指で回転しているのが武器であり最も重要なシンボルの光輝くチャクラです。この円盤はふちを刃にしてありブーメランのように戻ってきます。これは仏教の「如何なる障害物も粉砕して進む輪宝」に譬えられます。また太陽の象徴とも言えます。 右下手に持っているのは棍棒。西洋で言うメイスと同じように力と権力の象徴です。 左上手に持つのは法螺貝です。神話ではこの法螺貝はパンチャジャナという海の悪魔でヴィシュヌの化身クリシュナに退治されたそうです。 左下手に持つのは蓮華です。インド宗教世界に置いて重要な意味を持つ蓮華は、水・大地・生命・再生と創造、更に世界そのものと考えられています。 このようにヴィシュヌは古代インドの時代から、超越的力を持つ特別な存在とされています。 ヴィシュヌの化身については他のページでご紹介します。 |